2011年1月27日木曜日

夕日に見とれ続けている



森では一番の者が、南へ向かって行ったきり帰らないと言う話は多くの森に住むもの達に知られたことになっていた。

この話に一番興味を示したのは、森を囲む草原の王だった。いつもの様に獲物探しのために森のフチを歩いていると、木々の奥から興味深い話が聞こえてきた。「どうやらあいつは延々と光る水、海というのを見に行ったらしい。」

森で一番の者を魅了するそれを、草原の王が放っておく訳には行かなかった。
是非その「海」とやらを見てみようと、彼もまた、静かに歩みを始めた。

彼が進む道はおおよそ正しく、半島の中心あたりを南に進んでいた。
ある日の夕方、彼の右頬を西陽が染めた。木々を掻き分け、陽の指す方へ向かい、彼は岬になっていたその山の突端に出た。

遠くの空から岬の下に視線を落とすと、燃えるように赤い太陽が延々と水平線まで光る絨毯を水面に浮かべていた。「これが、海に違いない。」彼は確信した。

草原の王を迎え入れるかのようなその絨毯に見とれた彼は、此処こそ自分の居場所であると決めた。